豊島区教育文化センター設計競技応募案


-1983年-

 

 この施設は、豊島区政50周年記念行事として企画されたものであり、設計競技には

16社が応募し、弊社の応募案は佳作入選した。

 明治このかた、我が国は西欧先進諸国に近代化の範をとり、これに追いつくことを共

通の目的意識として、多大の努力を払って来た。幸い恵まれた諸条件に支えられて、世

界の歴史に類を見ない経済発展を遂げ、世界経済の1割を越える国家となった。

 しかし、世界経済秩序の変貌、資源エネルギーの制約と地球環境問題、高齢化の急速

な進展等、我が国を取り巻く内外の諸条件は、急速に厳しさを加え予断を許さない状況

となりつつある。従って、これまでのように先進国を範とするだけでなく、我が国独自

の道を模索してゆかねばならない状況にある。

 私達は、成熟した物質文明を維持しながら精神的豊かさを求めると同時に、各地の特

色ある自然環境や、風土・習慣の中で誇りを持って語ることのできる地域文化を創造し

継承・発展させなければならない責務がある。

 戦後教育は民主主義を中心に据え、基本的人権や絶対平和主義を高く掲げた点は多い

に評価される所であるが、反面いたらずに権利を主張するあまり義務を忘れ、私権を乱

用する風潮が生じていることも事実である。

 このところ社会問題となっている、登校拒否・いじめ・学生自殺等はその典型的なも

のであり、これを根絶するためには、今直ちに社会全体が学力偏重教育による人間性の

消失、親子相互不信による家庭の崩壊、弱者への思いやりの欠如等々、青少年教育への

姿勢を根底から見直さなければならない。

 このように、心の教育が再検討され国際貢献に目覚めない限り、日本は国際社会から

評価を受けることはできないし、ついには世界のなかの孤児と化してしまう危険性を孕

んでいる。

 今世界のリーダーとしての責任と義務を考えるとき、日本の民族の特性である自由と

勤勉の精神のもとに、国際的視野で物事を判断できる豊かな人間教育が待ち望まれてい

るのである。

 国際社会に向かって、心豊かな人物を一人でも多く世界に送り出すことが、この施設

に託された最大の課題であると考えて提案した。

 

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